前回の記事では、PCに高負荷を加える代表的な software である OCCT と Prime95 を使用して、Ryzen Master で PBO の条件を変更しながら、CPU 温度がどの位まで上昇するか確認した。その結果、現在の室温と環境で高負荷を加えた場合に、TDC Limit 95 A (Ryzen 7 3800x の default) の上限に達しても CPU 温度は 90 度以下に抑えられており、CPU cooler の冷却性能が間に合っていることが分かった。
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- 負荷100% の時の CPU 温度と Clock、PPT 実際値、TDC 実際値の関係 (OCCT_AVX2 の結果、Prime95_small の結果)
- CPU 温度と PPT 実際値、TDC 実際値の関係 (結果)
をグラフで示したが、間の開いている部分があったり、変化の大きい部分の sample が無かったり、と不十分な結果だった。
今回は、PPT Limit をもう少し細かく変更して、CPU 温度と PPT 実際値、TDC 実際値の関係を調べてみた。
高負荷テスト方法
前回の結果を踏まえて、今回は以下の条件で高負荷テストを実施した。
- OCCT_AVX2 と Prime95_small の条件では、どちらかといえば Prime95_small の方が高負荷を加えられているようだった。今回は Prime95_small に絞って高負荷テストを実施した。
- PPT Limit と TDC Limit の両方を変更する意味は無さそうなので、PPT Limit のみを変更し、TDC Limit は 95 A、EDC Limit は 140 A で default 状態で一定とした。
- PPT Limit は、前回7つの結果に加えて、60 W から 135 W まで 15 の条件で変更した。
テスト環境については前回通りである。
高負荷テスト結果
PPT と CPU 温度、Clock、TDC の関係
- 前回と今回の結果を重ねて描いたのが上のグラフである。分かりにくかったので横軸は PPT 実際値に変更した。
- PPT Limit 135 W以下の条件では、PPT 実際値は PPT Limit により制限されていた。PPT Limit 142 W の default の条件では、TDC Limit 95 A により制限されていた。
- PPT Limit を増加させると、CPU 温度は上昇し TDC 実際値も上昇する。Clock も上昇するが、CPU 温度が 80 度以上(PPT 130 W以上)で伸びが鈍化している。冷却を強化すると Clock がより上昇するようになるのだろうか、興味のある所である。
- PPT Limit が低い領域では、CPU 温度をそれほど上げずに Clock を上昇させる事の出来る部分がある。ワザと冷却を弱めて試してみるのも面白そう。
PPT と Clock の関係
- 先のグラフから、PPT 実際値と Clock の関係のみを抜き出したのが上のグラフである。
- PPT 90 W から 130 W の間は、PPT 実際値と CPU 温度は直線関係となっていた。Ryzen 7 3800x の基本クロックである全コア 3.9 GHz に達するのは、今の環境では PPT Limit 115 W の時である。
- PPT 60 W から 70 W の間は、PPT 実際値と CPU 温度は二次関数の関係となっていた。この部分の PPT 実際値、CPU 温度、Clock を一覧にしてみた。
PPT [W] | CPU Temp. [C] | Clock [MHz] |
---|---|---|
60 | 48.5 | 2594 |
63 | 48.8 | 2981 |
65 | 49.3 | 3147 |
68 | 51.3 | 3345 |
71 | 51.6 | 3489 |
- この領域では、PPT +11 W に対して CPU 温度は +1.1 度、Clock は 895 MHz 上昇した。
PPT Limit 60 W は Ryzen 7 3700x の Eco Mode (TDP 45 W) 相当である。PPT Limit 71 W 以下の条件では、PPT Limit を減らしても CPU 温度はそれほど下降しないが、Clock が大きく減少する。PPT Limit の中に Windows 自体の負荷も入るので、実際の処理に使われる CPU 能力の落ち込みは大きいと考えられる。冷却が十分であれば、PPT Limit を 71 W 以下に設定する理由はないと考える。
PPT、TDC と CPU 温度の関係
- 点数が少なかった時のグラフと、概ね傾向は変わらない結果となった。
- Ryzen 7 3800x の基本クロックである全コア 3.9 GHz に達する PPT Limit 115 W の時に、CPU 温度は 73.4 度、TDC は 81.7 A となる。
- CPU 温度が 80 度となるのは、PPT Limit だと 126.6 W、TDC Limit では 88.3 A となる。
結果
- PPT Limit を細かく変更し、Prime95_small の条件で CPU に高負荷を掛け、CPU 温度がどの位まで上昇するか調べた。
- PPT Limit が 90 W から 130 W の範囲で、PPT 実際値と Clock は直線関係にあり、全コア 3.9 GHz の Ryzen 7 3800x の定格 Clock になるのは PPT Limit 115 W の時だった。その際に、CPU 温度は 73.4 度となった。
- PPT Limit が 130 W を超えると、Clock の上昇が鈍化する。その境界となるのは、CPU 温度 80 度にありそう。CPU の冷却性能を向上させた場合にどうなるか、興味深い所である。
- PPT Limit が 60 W から 70 W の範囲では、PPT が下がった際に Clock が極端に下がった。Ryzen 7 3800x の Eco Mode は PPT Limit 88 W なので問題ないが、Ryzen 7 3700x の Eco Mode だと極端に処理能力が下がると考えられる。冷却能力と CPU 温度の関係にもよるだろうが、PPT Limit の下限は 70 W 程度にしておいた方が良さそうである。これ以下に PPT Limit を下げなければならない環境ならば、素直に Ryzen 5 3600 等を使用した方が良いだろう。
- CPU 温度が 80 度未満で運用するなら、PPT Limit なら 126 W 以下、TDC Limit なら 88 A 以下に設定すればよい。(ただし、CPU の冷却能力に依存する)
Prime95_small のような高負荷は、数値計算を除けば現実的ではないかもしれない。それでも、AVX2 を多用するような処理であれば、この領域まで負荷が上がることも考えられる。また、現在は冬季で気温が低めだが、夏季には室温が上昇し、CPU の冷却能力が落ちてしまう。これらの条件も考慮して設定を考えておく必要があるだろう。
夏季に同じようなテストを実施するまでは、TDC Limit 95 A (Ryzen 7 3800x の default)で運用してみる。